Mです。
平成最後の秋は、おかしな秋だった。
東京の例になるが、なかなか寒くなってこなかったのである。11月に入っても夏のような気温になるなど、これから本当に冬になるのかな?と言いたくなるほどだった。12月に入ってようやく最高気温が15℃を割るようになったが、それも10日を過ぎあたりで、それから一気に寒くなっていった、という印象だった。
そんな、秋を忘れたかのような季節変化が影響したのだろう。都内の街路樹が、そこかしこで残念な姿を見せていた。
会社事務所の近くではスズカケが、うす茶色にクシャクシャと乾燥した葉を何十枚と枝に残したままで立っていた。いつもの冬なら、11月末にはほとんど葉を残さずに裸の枝を晒していているのだが、その時期、多くの葉が緑のままだった。12月に入る頃までその状態でいたのだが、その後一気に気温が下がると、黄色くなって落ちることも出来ないまま乾燥し始め、ついには白っぽい茶色に色素抜けしたような姿になってしまった。強い風で半分以上飛ばされていったものの、それでも何十枚と枝に残っていたのである。それらの葉が全部飛び去ったのは、年が明けてからしばらくしてだった。
落葉樹は、秋になって日照時間が短くなり気温も低くなっていくと、光合成の効率が落ちて葉緑素(でんぷん工場)の稼働率が落ちると役割を終えたと見なされて紅葉(黄葉)し、ハラハラと落ちていく、というのが通常のスタイルである。
じつはこの時期、それまででんぷん工場として稼働していた葉緑素が不要物となって色素分解をおこし、黄色の色素や赤の色素にとって代わられていく。これが紅葉として人間どもに楽しみを与えている現象だ。と同時に、葉が元気だった時に内部でつくられていた成長ホルモンのひとつオーキシンの合成が止まる。そうなると、葉っぱは生物としての活性が落ち、水を吸い上げる力にもなっていた光合成工場の操業停止で水が上がってこなくなる。成長ホルモンは無くなる、水は上がってこない、となればあとはひからびて落ちるだけ。というわけだが、実はこのとき、オーキシンがつくられなくなることがキッカケで、葉柄の枝にくっついているふくらんだ部位の中で「離層」という細胞群が柄を横断するようにつくられていく。たしか中学の理科で習ったのだと思うが、この離層こそが落葉の大立て役者。離層の中ではエチレンがつくられていき、その作用で離層細胞の結合力を減らしていく。わずかな風で音もなく葉が落ちていくのは、この離層形成の結果、というわけだ。
工場はいきなりの操業停止に陥り、水栓は閉じてしまうわ栄養は来ないわ、で色素の分解や合成はおろか離層細胞の形成も出来ないまま、ただただ枯死していくことになった。ところが、くだんのスズカケは、12月初頭まで夏かと思わせるような気温になっていたこともあってだろう、いつまでも光合成を続けていられたので自分の運命を知らずにいた。当然、葉緑素のでんぷん工場が稼働していたからオーキシンもつくられていた。そのために、本来なら徐々に活性が衰えて離層形成にスイッチオンするはずが、その時期を逃してしまったのである。そこにもってきて、一気に寒気が襲ってきた。
それが、あわれなクシャクシャ葉っぱの正体だと思う。
少し離れた幹線道脇では、これまた、本来なら赤くなって落ちていたはずのハナミズキが、やはりとぼけた茶色のカラカラに乾いた葉っぱをたくさんつけていた。こちらも同じく、ちゃんと紅葉のステップを踏めずにいきなり冬に突入してしまった結果なのだろう。
いやはや、生き物は自然には勝てないのである。
動物ならまだ逃げるという手もあるが、植物はそういうわけには行かない。
死んでしまうことはないだろうが、正常に紅葉して落葉する、ということが出来なかった時、次の春に何か影響があるのだろうか。
せっかくだから、そんなところを観察してみたい。