理系夫婦Y子とMの昭和から令和まで

都内で働く薬剤師Y子と、パソコン・DIY・生物などに詳しい理系の夫M。昭和30年代から今日までの実体験に最新の情報を加え、多くの方々、特に子育て・孫育て世代の皆様のお役に立つことを願いつつ発信する夫婦(めおと)ブログです。

赤とんぼ じゃなくって ウスバキトンボです、たぶん

Mです。

トンボは夏の風物詩。群れて飛ぶトンボに夏を感じるひとは多いに違いない。うるさい蝉とはちがって、見て楽しめる奴らだからトンボの方がすき、という人も多いかも。

あっ、赤とんぼが群れてる、と思ったあなた、多分それはウスバキトンボです。

 ↓ ウィキペディアさんから転載 体は、赤ではなくて黄色です

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虫と魚で日々暮らしていたMの小学生時代は、半世紀以上前。その頃は、気温が30℃を超えると、今日はあっついねぇ、と話題になった。母親は、外に遊びに出かけようとするわが子を見て、帽子 ボオシッ !と大声を上げていた。

それが今や、夏に30℃なんて当たり前、35℃を超えないと暑いうちに入らない、というほどになっている。北海道で38℃超え、とか、もう日本列島は熱帯から亜熱帯になったかのような具合だ。

海の中も然りで、房総半島の磯場にチョウチョウウオが住み着いているとか、はてまたエラブウミヘビもいるとか。

気候の温暖化、いや、むしろ暖化傾向は確実で、それがいろいろな形で顕在化してきている。

岩波新書の「日本列島」を高校時分に繰り返し読んだが、地球史から見て今の地球が温暖化のピークに近い時期にあるらしいことが記されていた。

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人間史などほんのひと摘まみにしかならない地球史で見れば、「産業革命以降の急速な温暖化」という表現も、いささか迫力が削がれてしまうのは気のせいだろうか。CO2削減条約に背を向けるトランプさんの肩を持つわけではないが、地球のもつ長期的な気候変動の波から見ると、今いくら騒いだところで、人間ごときが地球の動きを変えられるわけがない、と思う気持ちがあるのも正直なところだ。

その温暖化をジワジワと、そして感覚的に確実に感じさせるものの一つに、関東地域でのトンボの変化がある。

半世紀前の夏休みに、Mが生息していた関東東部の田畑を飛翔していたトンボといえば、シオカラトンボ(♀;ムギワラトンボ)を筆頭に、シオヤ、オオシオカラ、ナツアカネ、ウチワヤンマ、ギンヤンマ、オニヤンマたちだった。たまに、カトリヤンマ、サナエトンボやコシアキトンボなども見かけたが、時間帯も短いし場所も特定されていたので、前述のトンボたちが主役だった。

それが、田んぼの耕地整理でため池がどんどん消えていき、田んぼの間を流れていた小さな用水路がコンクリート製のU字溝に変わると、田んぼは秋から完全に乾いてしまうという事態に陥り、夏の終わりに産み落とされたはずのトンボの卵は、ヤゴになったはずの時期に渇水に見舞われることになった。当然のこと、そんな田んぼで孵化した幼体は死に絶える。

そんな時代の流れの中で、トンボたちの生息域はどんどん狭められていき、残っているのは流れの緩い里山の奥の水場や、そこここに残された比較的大きな池周辺の水草まわりに限られてしまった。

トンボを見始める時期はそれほど変わらないものの、見かけられる場所は悲しいほどに減ってしまったのである。しかも、むかし筆頭だったシオカラトンボ(ムギワラトンボ)だけは確実に毎年現れるものの、その他のトンボたちは見ようと思って出かけない限り見つけられない。ウチワヤンマにいたっては、もう30年は見ていない。畑に立っているキュウリ棚の突端を探せば難なく見つけられたあの姿が、もうセピア色の光景でしかない。

↓ ウチワヤンマ(ウィキペディアさんから転載)腹の先の膨らみがまさに団扇

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そんなトンボ界の激変の中、相も変わらず相当数見つけられるのがウスバキトンボである。

甲子園大会の時期に群れて飛ぶ赤とんぼとして誤認識されたこともあるが、彼らだけは東京でさえしばしば目にできる。それは、彼らが短期成熟型の熱帯性トンボで、産卵(卵の数も多い)から一月ほどで羽化するという特性を持ち、日本列島の南端付近で5月頃に現れ始めると、真夏には北海道にまで拡散していくことが分かっている。

北上と同時に各地でいろいろな水場(プールさえも使う!)で繁殖を重ね、飛ぶことに特化した超軽量グライダーのような体で北へ北へと飛び拡がっていくのである。

ところが、彼らには大きな弱点がある。熱帯、亜熱帯性の生き物で温度低下に弱い。日本のトンボたちが各地でヤゴの状態で越冬できるのに対し、水温が5℃を下回ると死に始めてしまうのだ。限界は4℃とされている。

 ↓ ウスバキトンボのヤゴ(出典;ヤゴペディア さん)成体と似た色姿

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したがって、多産卵で世代を継ぎながら北を目指したものの、冬を前に成虫がいなくなると、その子たちは温泉でもない限り越冬できずに死滅する。つまり、ウスバキトンボの日本縦断旅行は、南から北へのワンウェイ・ツアーなのだ。そして、次の年には、また南から新しいグループがやって来るというわけ。

今年もウスバキトンボが生まれてきた、と思っているのは、九州までならあり得るものの、それ以北では間違い、ということになっている。生まれてきた、のではなくて、またやって来た、と言うべきなのである。

同個体のツバメが何回も渡来するのとは違って、種は同じでも去年のグループとは縁もゆかりもない群がやって来ているのかも知れない、ということに気づいているひとは少ないのではないだろうか。

ただ、関東でも、5月頃に少数のウスバキトンボがキラキラとした羽根で飛び回るのを見ることがある。その頃羽化できるとすれば、そのヤゴは越冬できた、としか考えられない。まさか、九州から飛来したのではないはずだ。まだ柔らかく輝くあの羽根は、いくら飛翔性能が高いとは言え、1000Km以上の距離を上層の気流に乗ってやって来たとは思えないのだ。

温暖化で、ウスバキトンボの越冬可能地域が徐々に北進しているのではないか、と思っている。

北海道がうまいコメの産地になっている昨今、もはや日本列島は総温帯、関東以南は亜熱帯なのかも知れないから、そのうち東北でもウスバキトンボが夏前から現れるという現象が起こるかも知れないと思うのだ。