Mです。
現代のママさん、パパさんたちも使うのだろうか?
ベビーパウダーの名称でいくつもの製品が売られているが、Mの幼児期には、赤ちゃん用の夏場必須アイテムだった「汗知らず」。この呼び名も今や、絶えて久しいかも。
当時は、首や肘を真っ白にされた赤ん坊がそこいら中にいた。今のように紙おむつがない時代で、布おむつを替えるたびに母ちゃんが子供の尻まわりにパタパタとたたいて付け、ついでに汗が溜まりやすい他の部位にもパタパタしていた。とにかく「あせも」をつくらないことが大人の責任だったのだ。
今でもドラッグストアで売っているので、使われてはいるのだろうが、少なくとも昨今の赤ちゃんが首回りを白くしているのは見たことがない。
そのベビーパウダーにもいろいろあるが、なかでも発泡プラスチックなどの柔らかい材料を加工するとき、カッターの刃にうってつけなのがシッカロール。和光堂の創設者が、江戸時代からあった天花粉(キカラスウリの根から採ったデンプン)と、タルク(鉱物の白粉末)、亜鉛華(酸化亜鉛粉末)の3種を混合して作ったもので、ベビーパウダーの代名詞のように思っていたが、登録商標なのだと知ったのは最近のことだ。
発泡材料は、それ自体柔らかいのだがカッターの刃で切っていくとすぐに滑らなくなる。カッターの刃には最初に油が塗布してあるのだが、それが発泡剤に取り去られていき、摩擦が大きくなるとギシギシと材料が刃にまとわりつき始める。無理に引いても切断面が乱れるし、直線に切れなくなってくるのである。刃を折って新しい部分で切ればいいじゃないか、と思われるかも知れないが、刃はまだまだ切れるのに滑らないからうまく切り進めないのだ。
そんな作業を常に行っている加工場で、15年ほど前に見たのが、作業員たちがカッターを時々突っ込んでいる丸い箱だった。近づいてみると、なんと、和光堂シッカロール。彼らは、材料を一度切り終えるたびに刃をシッカロールに突っ込んでまぶしている。そうすることで、油がとれてしまっていても、カッターの刃が難なく滑ってくれるのだ。
誰が気づいたの?と尋ねてみたが、誰も知らなかった。どうやらその業界では以前から知られていたことらしく、当たり前のように使われていた。
作業場の棚にはいくつものシッカロールの丸箱が重ねられていて、My シッカロールとして確保されていたようだ。名前まで書かれていたから、思わず笑った。使ったあとに元の場所に戻さずに紛失することが多かったから、個人管理にしたのだそうだ。
ちなみに、やはり安く手に入るジョンソン&ジョンソンのベビーパウダーを、同じ用途で使ってみたことがあるのだが、芳しくなかった。どうにも、滑りが違う。
調べてみると、J&J製のものは、タルクが主成分で、そこに微量の香料が入っているだけだとわかった。ということは、天花粉か亜鉛華の存在が、切れ味保持に役立っている、ということになる。和光堂、畏るべし、である。
発泡材料は、柔らかいのになかなかの「くせ者」で、切っているとカッターの刃が結構熱くなってくる。つまり、簡単に切れる相手にもかかわらず、かなりの摩擦が起きているということになる。また、発泡材料自体が断熱性が高いため、発生した熱がその場にとどまってしまうから、熱の良導体である金属刃が熱を引き受けてしまう、という結果になるのだろう。
だから、発泡材料のカットは、刃を深く入れずに角度を浅くしてスウ~~ッと引くのがコツ。
厚い材料の場合には、何回かに分けてスウ~ッと引くことを繰り返す。垂直に引くにはコツがいるが、それは本人のワザ次第。原反材料は70mmくらいの厚みだが、真っ直ぐに引けるようになれば玄人の仲間入りである。
まるで、江戸時代の木場で活躍した木挽き職人のようだ。
発泡材加工の達人たちは、真っ正面に構えて見事に垂直断面を作ってみせる。残念ながらMはまだ半人前で、10回切ってちゃんと垂直になるのは7割が良いところ。もうチョットだという気がするのだが、この壁が未だに越えられない。
とはいえ、ここまで来たのも、シッカロールのおかげ。ケチるとてきめんに力が必要になって真っ直ぐ引けないから、その点にだけは気をつけている。
ところで、カッターの刃に 白刃 と 黒刃 があるのをご存じだろうか。
安いカッターに付いているのはまず白刃。だが、切れ味が格段に違う黒刃が、モノ作りには必須アイテムであることに注意してもらいたい。
刃材料の硬度がまるで違う。黒刃は、薄い鉄板程度なら簡単に切れてしまうほどの優れものである。
柔らかものと侮らず、是非とも、黒刃とシッカロールをペアにして対決してもらいたい。