Mです。
獲物を糸でぐるぐる巻きにして、溶かして喰らう。落ちたら最期、すり鉢から出られずに大きなアゴで挟み採られてしまう「アリ地獄」と双璧をなす怖い存在。クモにはそんな残忍なイメージがつきまとっている。
動物を養殖して食っているヒトの方がよっぽど残忍なのだが、そんなヒトのなかにクモを怖がる者が多いのはなぜだろう? 怖がっている、と言うよりは気味悪がっているのか?
しかしMは、(あまり詳しくはないが)あのクモが大好きである。
クモにはいろいろなタイプがいて、目立つのは芸術的なネットを張るタイプ。一番好きなのはコガネグモで、巣のZZZZZZ模様が素晴らしい。
クモの巣形状は、あのスパイダーマンの衣装模様になっているし、情報化時代の「ネット」がそもそもこの巣のイメージから来ている。ワールド・ワイド・ウェブなのだ。
巣を作らないもので特に有名なのは、ヨーロッパの伝説に出てくる悪名高いタランチュラだが、実際には大型で怖く見えるものでも毒はさほど強くない。むしろ、日本でも時々ニュースになる小さなゴケグモの仲間の方が毒性は強いのだから、わからないものだ。タランチュラが怖がられるのは、小鳥を喰らう姿を見られたりしているからだろう。
巣は作るけれど、木の根本の穴に糸で部屋を作っているジグモやトタテグモ、ススキの葉を巻いて家を造るカバキコマチグモたちのように土や植物をうまく加工して使うクモなどは、建築家タイプで、目立たないがかなりの技巧派と言える。
それらのクモと同じように目立たないが、愛嬌たっぷりなクモがいる。
ハエトリグモと呼ばれる一群である。
彼らはとにかく小さい。蜘蛛、昆虫いずれでも多くの場合メスの方が大きいが、ハエトリグモの場合は大きなメスの方でも体長(頭から腹の先まで)は6~7mm程度。オスは5mmに満たないことが多い。屋外の草に多く棲んでいるが、小さいからほとんど気付かれない。ところが、その名が示すように、彼らはヒトの住処の中にもよく入ってくる。
昔は特に、紙と木で作った小屋に住んでいる、と西欧人が語ったように、日本人は隙間だらけの家に住んでいたから、ハエトリグモは自由自在に家の中に入り込んだ。そこには天敵がいないし、一方で獲物になるハエが集まっている。壁を這い回りながら、近くに来たハエに飛びかかって補食するアクロバティックな狩りは、子ども心に、チョ~カッコ良かった。5cm以上離れた獲物に飛びかかるその姿は、それこそスパイダーマンだったのである。
そのハエトリグモの一種マミジロハエトリが、部屋に棲んでいる。オスが一匹だけで、この秋から、白い壁紙の上をチョコチョコ歩いているのを見かけるようになった。小さなオスで、まだ完全に成長しきっていないように見える。
(壁紙の凹凸幅は2~3mm 右下の丸い部分が頭胸部)
名前が示すように、頭部に白い眉毛のような毛が横向きに付いていて、なかなか愛らしい。ショボイ写真だが、シロ眉毛は右下部分になる。
ハエがいることはごく稀だから、何を食しているのか不思議だ。それなのにもう数ヶ月見かけているから、ごく小さな獲物がいるのかも知れない。部屋においてある果物に小さなショウジョウバエがどこからかやって来ていることがあるし、カーペットや畳には、思いたくはないが家ダニなんぞもいるのだろう。そんな獲物を捕らえているのかも知れない。
(下は昆虫エクスプローラーさんから拝借した写真 おみごと)
とはいえ、もう冬である。コンクリート製の部屋では、温度が下がったとき潜んでいられる場所がないのでは、と心配してしまう。もしかすると、絶対冷たくならない冷蔵庫の放熱面にでもくっついて暮らしているのかも知れない。
何年の寿命があるのかわからないが、じっくりと観察してみようと思っている。
えさを呼ぶために、ではないが、ショウジョウバエの好物「バナナ」は常備している。