理系夫婦Y子とMの昭和から令和まで

都内で働く薬剤師Y子と、パソコン・DIY・生物などに詳しい理系の夫M。昭和30年代から今日までの実体験に最新の情報を加え、多くの方々、特に子育て・孫育て世代の皆様のお役に立つことを願いつつ発信する夫婦(めおと)ブログです。

ついに来たか!? 冬眠誘導

Mです。

 新型コロナ騒ぎで、いろんなことがトコトン嫌になってしまっている方々も多いのではないか。
 出来れば社会活動ごとフリーズさせて、ほとぼりが冷めたらチンして元に戻せたらどんなによいだろうか、と思ってしまう。

 そんな、タイムマシンのような都合の良いお話はあり得ないが、ほ乳類の一部が行う「冬眠」を、人為的にコントロールできるかも知れない発見があった。
 筑波大学の櫻井教授と大学院の髙橋氏が、理化学研究所の砂川氏らとの共同研究の結果として、6月11日付で大学から発表した。大まかな説明は、下記筑波大のリンクを参照願いたい。

 http://www.tsukuba.ac.jp/attention-research/p202006111800.html

 クマやヤマネが食物がなくて雪に閉ざされてしまう冬山で、穴にこもって春を待つ行動を、冬眠と呼んでいる。ただし、クマでは代謝が極端に落ちる事はなくて、半眠り状態でエネルギーを消費しながらどうにか冬場を凌いでいるので、本格的な冬眠とは言えない。一方で、ヤマネやリスたちのように体温を極端に低下させるまでエネルギー消費を抑えて、活動停止状態になるのが本格的な冬眠である。
 冬眠の逆で、夏に代謝を落として眠ってしまう行動様式を夏眠と呼んでいる。日本ではあまり知られていないけれども、雨のない時期にカタツムリが粘液を固まらせて木の幹や岩の裏などにひっついて動かない状態も、夏眠の一種とされている。こども図鑑などで有名なのは、ハイギョの夏眠だ。乾期に水がなくなって動けなくなってしまう時期に、ハイギョは自らの粘液で泥のなかに室をつくって籠もる。これが有名な夏眠状態。水がない中で、ハイギョは穴のなかで最低限の肺呼吸をしている。水陸両用動物始まりの姿で、まさに太古の姿を引き継いでいるスゴイ輩である。

 こんな動物たちの行動の中で、ほ乳類の冬眠については、神経支配とそれに伴うホルモンなどの情報伝達物質によって、身体じゅうの機能が低くコントロールされているのだろう、と想像されいるものの、実のところはあまりよく解っていない。冬眠遺伝子を突き止めようとする仕事もあるが、いまのところ、こちらの方向も明確なものが見つかっていない。

 そんななか、冬眠とは縁の無い齧歯類(ネズミたち)でも、脳の視床下部という場所の特定の神経群を刺激すると、眠るはずのないネズミが冬眠状態になってしまうことを発見したのだから、これは画期的なことだ!
 視床下部は、成長ホルモンにも関わる場所で、脳の底、上顎の中央上方にある奥まった小さな場所。代謝と深い関係にある成長ホルモンに関わる場所なだけに、代謝調節そのものとも言える冬眠とも関わるのだとすれば、さもありなん、と思える。

 下の画像は、櫻井さんたちが示した、代謝が落ちたネズミと通常のネズミのサーモグラフ比較を示している。(一部文字を入れさせていただいた)
 右の処置ネズミは、普通なら死んでいると思われるくらいの体温だとわかる。とても動く事は出来ないレベルだ。

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 ところで、筑波大グループの科学研究費申請資料によると、2019年に研究費が交付された研究題目は、「絶食による休眠誘導の神経回路の同定と人工冬眠の誘導」、となっていた。どうやら、絶食という手段でマウスが飢餓状態になったときに、代謝を抑えて生き残ろうと身体が反応して休眠状態になる現象を利用して、その時、脳神経のどこが活動するかを分析しようというのが、当初の目的だったのだろう。次いで、その場所が解ったら今度はそこを適切に刺激してやることで、飢餓にしなくとも休眠状態を作り出せるか、と考えたのだろう。つまり、この段階では、冬眠ではなく、休眠だったのである。
 その実験の中で、はっきりと休眠に関係する神経組織の場所をつかんで、今回発表した成果につながったと推測する。そして、思っていたよりもずっとしっかりしたレベルの休眠状態を誘導する事が出来て、それがあたかも「冬眠」に匹敵するレベルだった、という流れだったのだろう。

 冬眠という現象は、夏眠も含めて、動物が自分の身体を生きていける最低の状態に落としている現象だ。世界が5ヶ月近く時間経過していても、その個体にとっては2~3日分のエネルギーしか消費していないという程のエコモードである。常に食べ続けていないと生きていられない齧歯類にとっては、自分の時間を何百分の一の速さにスローダウンした状態を作っているのだ。

 これは、SFの世界で始まった冷凍人間の話とも通じる。今治せない病気も、100年後、500年後には救えるかも知れない。だから、患者を冷凍保存して、遠い将来に解凍して治療しよう、という目論見のお話だ。実際に、米国のお金持ちが、自分の身体を冷凍保存しているとか、いないとか・・・
 そんなSF話はともかく、ほ乳類を人為的に冬眠状態にもって行けるということになると、人間の世界が ”ものすごく” 変わってくる。
 医療分野では、薬を使わない麻酔が可能になるし、心臓や脳の手術といった時間との勝負になる領域でも、身体がほとんど停止してしまった状態になってくれているのだから、煩雑な手技も焦らず行える。もちろん、出血も極端に少なく抑えられる。その他、今は思いつかないが、遺伝子治療にも適応させられるアイデアなど、いくつも出てきそうだ。

 SFの宇宙ものでは定番になっている冬眠状態での宇宙旅行も、夢物語ではなくなるかも知れない。火星移住も、本気で考えられるかも知れない。
 大災害時には、休んでいてよい人々は冬眠状態になってもらうことで、食糧を含めたエネルギー節約が可能になるなど、人間社会のトラブル対応策としても異色の策になるかも知れない。(悪いヤツが使うと、とんでもない道具になるが・・・)

 とはいえ、この技術がどこまで他のほ乳類に適応可能かどうかは、まだ何ともわからない。しかし、マウス、ラットともに同じ現象が見られ、刺激がとだえて一定時間過ぎれば元に戻っているという報告は、嘘ではないな、と感じさせてくれる。

 発見した神経群は、休眠誘導神経群(Q神経群;Quiescence-inducing neurons)と名付けられている。ここを刺激すると、一定時間冬眠状態になって、その後元に戻るのだという。
 刺激が与えられると、きっと何かの伝達物質が作られて、それが体中に巡っていくのだろう。この先、それが何なのか解れば、神経を直接刺激せずとも、人為的に合成した「それ」を薬として使う事で冬眠誘導することも可能になるだろう。

 神経群の刺激方法もいろいろ検討されるだろうが、非侵襲の電磁刺激のように、余計なな薬物投与なしにコントロール出来る方法も見つかるかも知れない。

 まだまだ課題は山のようにあるが、将来的に、ノーベル賞級の仕事に発展するかも知れないと期待している。

 Q神経群と聞いて、いにしえの円谷作品「ウルトラQ」を思い出してしまった。