理系夫婦Y子とMの昭和から令和まで

都内で働く薬剤師Y子と、パソコン・DIY・生物などに詳しい理系の夫M。昭和30年代から今日までの実体験に最新の情報を加え、多くの方々、特に子育て・孫育て世代の皆様のお役に立つことを願いつつ発信する夫婦(めおと)ブログです。

mRNAワクチンの実用第一弾 期待は高いが、慎重に!

Mです。

 英国で、独米共同創出のPfizer社製「対コロナワクチン」の接種が始まったと報じられた。

 理解力が高く、副反応への心構えと対応力のある医療従事者への先行投与だとのこと。
理詰めの実施に、さすが英国だと感じた。
 その中にあって、10日朝の報道で、早くも急激なアナフィラキシー様症状が2例発生したという情報も飛び込んだ。軽微な副反応も複数種確認されていて、その割合は多いもので数10%程度起こっているという。ただ、それらは長引くことなく解消されているそうだ。とはいえ、2例とはいえ、いわゆるアレルギー反応のうちでも激しく危険性の高いアナフィラキシー症状と思われる状態に至った例があることは、見逃すことのできない事実でもある。

 10日夕の報道で、日本が輸入決定している同ワクチンが入手された後は、新型コロナ感染による生命の危険性が高い高齢者を優先して、居住地域の病医院などで接種できるようにする、との政府方針が示された。エッと耳を疑った。
 まだまだ試験段階を抜けきれていないこのワクチンに対して、何の疑問も持たずに一般接種に突き進むのか?! 
 正直、どこまで本気なのかと疑いたくなるほど、本質がわかっていない国の中枢に、腹立たしさを超えてもはや呆れてしまう。

 報道でも何人かの専門家が問いに答えているが、今話題のこのワクチンは、従来型の原因ウイルスそのものを使ったものではなく、効果も副作用も未確定な部分が多いmRNAワクチンである。新型コロナウイルス遺伝子(DNA)の一部を翻訳して、ウイルス表面の特徴的なタンパク質を作るために用意したレシピ(mRNA)である。レシピだから、それを見たところで何なのかはわからない。これが投与されたヒトの細胞の中に取り込まれると、細胞の中に備わっているタンパク質製造装置に読み取られて、ウイルスのタンパク質がヒトの細胞の中で作られ、細胞の外に放出される。ヒトの細胞が作り出したウイルスのタンパク質が血中に入ると、それを見つけた免疫細胞たちが、こいつは悪いヤツだぞ!と騒ぎ出して、駆除する部隊を組織する。いわば、「免疫ガーディアンズ」の編成である。

 ※mRNAワクチンがどのように働くかについては、アメリカ化学学会のブログ記事がわかりやすく解説しているので、下記を参照していただきたい。
https://www.cas.org/ja/blog/covid-mrna-vaccine

 このサイトから拝借したのが下の図である。
細胞内外に赤い半ハート型の風船が付いたようなものがmRNAワクチンから作られたタンパク質を示している。

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 新型のmRNAワクチンは、何が有利で何が問題なのか、それが、今の世論を惑わせている根本なので、簡単に説明したい。
 
 従来型のワクチンは、①病原ウイルスそのものをいろいろな方法で増やしながら、病原性のないものを選ぶ、あるいは、②増やした病原ウイルスを薬剤処理して、ウイルスとしては働けないが姿形だけは元に近い「死に体ウイルス」を作る、の二つが主だった。つまり、ウイルス成分の塊そのものだから、それが接種されると、ヒトの免疫系は、単一の反応でなく、いくつものガーディアンズ部隊を呼び起こして対応するという点で優れている。ただ一方で、病原体そのものを使っているため、その遺伝情報がほかのウイルスに移って新しいウイルスを作ってしまう可能性もゼロではないし、病原性を失わせたと思っていたのに、体内で病原性を持ったウイルスに変化してしまう可能性もまた、ゼロではない。だから、従来型ワクチンが認められるまでには、その安全性確認に長い時間がかかってしまうのだ。

 それに比べると、先行しているmRNAワクチンは、接種してから病原性ワクチンになる可能性はゼロなので、安全性の面で明らかに有利である。開発始動から1年もたたずにワクチン誕生を宣言できたのは、この安全性の壁が薄かったからである。
 ただ、ヒトの免疫系から見たときは単純な一つのタンパク質だけへの反応を呼び起こしてくるだけなので、それがどれだけ強力なガーディアンズを養成できるかは未知だ。
 効きさえすれば何の問題もないのだが、果たしてどれくらいの効果があるかは、まだ判らないのである。
 上の図にもあるように、このワクチンは、身体に入れただけでは効果がない。細胞に取り込まれて、その中の製造工場を借りて製品であるウイルスタンパク質を作らせなければならなないからだ。そのための仕掛けが、図左上にあるLipid coat と記してある黄色い2重膜構造だ。医薬領域ではこのような薬物の入れ物のことをDDS(Drug Delivery System)と呼んでいて、身体に入れた薬物が効果的に働けるようにする仕掛けで、種類はいろいろある。この場合は、投与するmRNAが細胞に取り込まれるように、細胞の膜となじみやすい脂質2重膜構造を使っていて、その中にワクチン本体であるmRNAを閉じ込めている。この脂質膜粒子が細胞膜にくっつくと、膜融合が起こって中身が細胞のなかに入っていく。図の黄色いこぶの部分が、融合した膜ということだ。この膜組成や作り方が各企業のノウハウで、詳細は明らかにされないことが多い。
 実は、このDDSの組成が、人によってはアレルゲンになってしまうことが知られている。英国で発生したアナフィラキシー様反応の例も、その人がちょうどこのPfizer社製mRNAワクチンのDDS成分に対する反応性を持っていたと想像できる。
 安全に接種できる、とは言っても、やはりそこにはしっかりしたアフターケアがないと危ないのだ。
 英国の2例は、しっかりした医療機関で行われていたからアナフィラキシー様反応が出た時点で即応できたので良かったものの、一般医院で接種したときにこれが起こったらと思うと、背筋が寒くなる。

 

 先行mRNAワクチンを接種するなとは言わないが、現段階で、みんなに接種できるよ、と言うのは時期尚早だと思う。
 しっかりした医療機関で、先行ワクチンの性質を十分に理解している医療従事者に希望を確認したうえで接種し、直後からのモニタリングを確実に行える体制を整えるべきだ。3週間後に2回目の接種を必要とするマニュアルなのだから、少なくとも2ヶ月程度のモニタリングは必須で、2ヶ月後に抗体価の確認をするところまで行ってはじめて、このワクチンの効果判定が出来る。
 あくまでも、まだ試験段階なのだということを忘れてはいけない。

 国は、このようなことを最低限確認した上で一般への接種を始めるべきだ。
 拙速は取り返しの付かないトラブルを生む可能性がある。

 オリンピック前提で事を急いてはいけない!