理系夫婦Y子とMの昭和から令和まで

都内で働く薬剤師Y子と、パソコン・DIY・生物などに詳しい理系の夫M。昭和30年代から今日までの実体験に最新の情報を加え、多くの方々、特に子育て・孫育て世代の皆様のお役に立つことを願いつつ発信する夫婦(めおと)ブログです。

旧型バッテリーへの回帰

Mです。

 前回、バッテリーダウンの顛末を記した。

 寒さでダウンしたバッテリーと載せ替えた新品は、事前のフル充電で、その後快調に機能してくれている。ダウンした物に比べて総電気容量が1割ほど低いのだが、放出電流量は十分。マイナス近い屋外で駐車していても、悲鳴を上げることなく一発始動している。とりあえずは、目出度し・めでたし。

お役御免になったバッテリーについて、電圧低下の原因が陰極の劣化(サルフェーション;鉛電極表面で硫酸鉛が固着し、有効電極面積を減らしていく現象)が進んだせいなのかどうか知りたくて、電解液の量と質を調べてみようと思いたった。
 鉛蓄電池の電解液は希硫酸で、陰極である鉛のメッシュ構造表面と陽極である酸化鉛とのあいだで、電子のやりとりをしている。その際、陰極の鉛表面では、硫酸イオン(

SO4 2-)が鉛(Pb)と結合し、PbSO4となって電子が放出される。同時に、硫酸イオンが鉛と結合したことで水素イオン(H+)が発生している。一方、陽極では、陰極で放出された電子がやってくると、電解液中に過剰になっていた水素イオンに渡って水素(H2)になる。このままだと、水素がどんどん気体となってバッテリー内に溜まってしまうが、陽極の材料である酸化鉛(PbO2)の一部が硫酸鉛になって酸素を放出するため、多くの水素はその酸素と結合して水となり、電解液中に戻っていくことになる。
 運転中のバッテリーでは、この電気を作り出す反応とは逆に、エンジンの回転を利用して発電機を回し、その電気をバッテリーに逆方向で送り出している。つまりは、充電である。だから、エンジン始動時に大電流を消費しても、走りながら充電している仕組みになっているので、バッテリーは「あがらない」のである。
 ところが、バッテリーの陰極で生成した硫酸鉛は、安定した塩であるために充電作用で完全に元に戻れず、ごく一部が固定化する。それは、白色沈殿として底に沈むか、陰極表面に付着していく。そのため、塩(硫化鉛)を作ることで消費(固定化)された硫酸イオンが、徐々に電解液中から減少していくことになる。また、陰極表面に安定な硫酸鉛が付着することで、陰極の有効表面積が徐々に減少していく、という現象も加わる。これが、鉛バッテリーの能力低下の要因とされているサルフェーションだ。硫酸イオンの減少は、電解液の硫酸濃度低下に等しいので、それを調べるには電解液の比重を測定するのが一番簡単。そのために、今様の多くのバッテリーには、電解液の比重が判る「のぞき窓」が付いている。

    ↓ 青玉・赤玉タイプのぞき窓(良好時)

   f:id:otto-M:20210120231231p:plain(DYDENさんの資料から部分拝借)

 のぞき窓にはいくつかの種類があるが、いずれも、プラスチックの玉を電解液に浮かせて、比重が下がると玉が沈んでいくので見えなくなってしまう。という簡単な仕組みで比重の確認をしている。上図だと、真ん中の赤い玉が見えなくなる。また、電解液量が減ると、比重にかかわらず玉は見えなくなってしまうので、そのときはのぞき窓の辺縁部の色合いが変わって、液が減っているのだと分かる仕組みにもなっている。上図だと、青い縁の色が消える。

 さて、うちのクルマから降ろした「お役御免くん」はどうだったか?
 状況は、まさに、電解液の減少が起こっていた。

 まだのぞき窓がついていなかった頃のバッテリー液比重チェックでは、同じ原理を使ったスポイト型の比重計を使っていた。Mはそれを持っているので、電解液を吸い出したかったのだが、いかんせん、液補充が出来ないシールド型バッテリーなので吸い出すための口がない! そこでMは強硬手段に出た。どうせお払い箱なのだから、とことん見てやろうと思い、マイナスドライバーをバッテリー天面の溶着してある蓋の溝に差し込み、ベリベリと端の方を剥がしてみた。思った通り、天井には、以前ならねじ込み式の注入口にあたる穴が並んでいて、剥がし取った蓋の裏には穴に対応した十文字の突起がついていた。突起は穴にピッタリと収まるサイズで、天板溶着の際にズレを起こさないようにするためだけらしい。端っこの穴二つほどが見えるように天板を持ち上げて、手持ちのスポイト型比重計を突っ込む。ところが、液がなかなか吸い上げられない。液面がだいぶ下がっているようだった。深く突っ込んで吸い上げてみると、比重は限界値に行くほどは悪くない。どうにか正常域になっていた。
 ということは、液性はそれほど劣化していなかったのだ。つまり、サルフェーションが進んで電圧低下を起こしていたのではなくて、むしろ、電解液が減ってしまったために陰極板の上の方が液面から出てしまい、有効電極面積を減らしてしまっていたために、十分な電圧が得られなくなってしまった、ということだと判った。

 う~~む、メンテナンスフリーとしている鉛バッテリーは、どうやらメンテフリーを売り文句にしているだけで、メンテして長持ちさせようと考えるユーザーには無用の物なのかもしれない。いや、むしろ「大きなお世話」的存在に思えるのだった。

 天板プラスチックを熱溶着してしまっている構造なので、天板全部を剥がしてしまうと再設置不可能。蒸留水を加えて液面を整えてやろうかとも思ったが、諦めた。
 とはいえ、液性がそれほど悪くないなら、充電効果はあるはず。12.7Vまで低下していた電圧がどの程度まで戻るのかを見てみたくなった。
 充電器をつないで半日ほど、お役御免くんを充電してみた。
 結果は、充電終了ランプがついた時点で14.7Vまで戻っていた。フル充電の新品バッテリーには及ばないが、十分使える電圧まで戻っている。ただし、液不足もあるし、そこそこサルフェーションも起こしているはずだから、総電気容量は確実に落ちているはずなので、この電圧数値ほどの信頼は持てないだろう。とはいえ、ここまで復帰させられると云うことは、電解液不足の影響がとても大きかったことを物語っている。液補充できるタイプだったら、まだまだ現役でいられたのではないか、と思えたのである。

  f:id:otto-M:20210120231842p:plain

 メンテナンスフリーバッテリーの液補充不要の理屈は、おおよそ上図のような蒸発水分の回収機構によるものだ。何のことは無い、蒸発した水分を天面で冷却して結露させ、傾斜面を伝わらせて電解液面に戻す、ということ。ちなみに、今回引き剥がした天板は、図中の青い楕円で囲った部分である。

 だが、そうだとすると、夏の暑い盛りには結露が起こりにくいはずだが、どうなるのか? 

 鉛バッテリー内部(陽極側)では、還元されて水に戻るはずの水素が、酸素と結合できないまま気化して少しずつ溜まってくるため、内圧が徐々に高まることが判っている。そのため、バッテリーの液補充蓋には小さな穴が開いていて、内圧が高まると簡単な弁を開く形で気体が外に出るようになっている。当然、水素だけではなく水蒸気を含んだ気体として出ていくことは不思議ではない。そしてそれは、余剰水素を抜く、ということだけではなく電解液の水分を飛ばしてしまうことにもつながる。
 メンテナンスフリーバッテリーにも、旧来型と同じように、圧抜きの小穴が設けてあるから、原理的には同じことだ。ただ、蒸気化した水分の回収効率を上げたから液補充(実際は蒸留水の補充)が要らない、と言っているだけなのだ。

 今回の「お役御免くん」は、そう考えると、液さえ補充してもらえれば・・・と悔しがっているのかもしれない。オレは、まだまだ働けたのに・・・と恨み目で睨まれているような気がする。

 せっかく充電してみたので、「お役御免くん」の剥がした天板を接着剤でモールドして復元した。液漏れしないようになっているので、何かの遊びにでも使えるかと思い、捨てないでおくことにした。

 今回の教訓。
 旧い男とお思いでしょうが・・・ 
 鉛バッテリーは、旧式の方が良い!!

旧型回帰である。