理系夫婦Y子とMの昭和から令和まで

都内で働く薬剤師Y子と、パソコン・DIY・生物などに詳しい理系の夫M。昭和30年代から今日までの実体験に最新の情報を加え、多くの方々、特に子育て・孫育て世代の皆様のお役に立つことを願いつつ発信する夫婦(めおと)ブログです。

驚異の生命力 イチジクの踏ん張り

Mです。

 無花果という文字を目にして、即座にイチジクと読める人はどのくらいいるだろうか。地味だけれど、食、アロマ、漢方薬など、多方面に顔を売っている不思議な植物。確かに実を食しているはずなのに、いったいどこを食べているのかさえよく分からない。紫色に熟した柔らかい実をガブリと一口すると、ほんわかと甘くてとろ~りとろける舌触りが何ともいえない。口中でプチプチする細かなつぶつぶが花なのだとは、よく観察しない限り気づかないだろう。

 このイチジク、葉からかなり強い刺激性のニオイを放散していることをご存じだろうか。ちょっとツンとくるような青臭さがあるのだ。青臭いけれど、清涼感もある不思議なニオイである。それがアロマとして好まれているらしい。
 実や葉をもいだ時に、断端から白い液がにじみ出てくるが、その液もこの青臭さを含んでいる。そして、その汁が柔らかい皮膚に付くと、しばらくして結構なかゆみを起こす。それは、汁に含まれる成分のせい。肉にイチジクを刻んでのせておくと、タンパク分解酵素の一種であるフィシンの作用で肉の繊維質がほどけて柔らかくなる。パパイヤやパイナップルを使う肉料理と同じ原理。この酵素が、皮膚の弱い部分に作用して「傷害」作用を起こすので、それがかゆみとなって現れる。子供の頃、手の甲に汁が付いてかゆくなったことをよく覚えている。
 ただ、近づいたときにツンとくるニオイの元は、この酵素ではなくフロクマリン類と呼ばれる有機化合物にある。昆虫類や動物に対する毒性を持つ物質群で、イチジクたちが害虫や害獣を避けるための忌避剤として身につけている物質だと考えられる。また、この化合物群は、他の植物たちに対して生育阻害作用をもつ。プソラレンというフロクマリン群に属する化合物がイチジクから抽出されているが、60年近く前の研究論文にそれが記されていた。
https://www.jstage.jst.go.jp 「植物の忌地性に関する生化学的研究 農芸化学 1960」
 ツンと来るあのニオイに、いろいろな研究者が興味を持っていたのだとわかって、興味深い。

 さて、昨日の昼過ぎのこと。
 西進していた京葉道路から清洲橋通りに右折して北進し、上野方面に向かってチャリをこいでいた。路面付近は明らかに40℃を超えている。普通なら腕から汗が噴き出て流れ落ちるはずなのに、あまりの熱気で汗が流れず蒸発してしまう。なるべく日陰を縫うようにして進み、総武線の高架下をくぐって50mくらい過ぎたところで、いきなりイチジクのにおいが飛んできた。エッと前を見ると、歩道端から車道側にあの特徴的な手のひらのような葉っぱがかたまりになって飛び出している。高さは3m程で小さな木だ。それでも葉が元気に茂っていて、枝には緑の実がいくつも付いている。その茂みから、あの独特のニオイが流れていたのだった。

 

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 街路樹として植えたはずはないと思うので、いったいどこから生えているのかと観察してみてビックリ。なんと、小さな鉢から幹が太く伸びてこんもりと茂っていたのである。

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 鉢の大きさは10L程度でかなり小さめ。屑籠程度だ。土がどれくらい入っているのかわからないが、鉢がほとんど幹で埋まっている感じだ。イチジクの鉢の回りには草花の鉢もいくつか置かれている。どうやら、歩道に面した古い二階建てのそば屋さんが、店先に置いているらしい。水やりはしっかりと行っているのだろう。信じられないほどの小さな土からソコソコの太さの幹に育ち、周囲に特有のニオイを振りまくほどになっているのだった。
 鉢の周りは壊れた鉢なども転がっていて、歩道のアスファルト上にそれらからこぼれた土が盛り上がって固まっている。どう考えても3mの背丈のイチジクが小さな鉢だけで生きているとも思えないから、鉢の底から飛び出た根っこが、周辺に積もった土塊や草木の朽ちた塊に広がっているのではないかと想像した。さらには、街路樹の大きな幹がすぐそばに見えるから、鉢植えを置いた下には、街路樹周りだけいくらか土の露出があるのかもしれない。だとすると、鉢から伸び出た根が周囲の土の塊を経て街路樹の根元に達し、そこから歩道下の地面にも食い込んでいる可能性がある。
 通行人の多い歩道だと苦情が出そうだが、どうやらそれほど多くの人通りがあるとは思えないから、見逃されているのだろう。

 たくさん実を付けているイチジクが、苦情が出て無残に切り取られないように祈った。
 できれば、もっとしっかり観察したかったが、打ち合わせ先に「イチジク見つけちゃったんで遅れます」とも言えず、携帯パチリで立ち去らざるを得なかった。

 可能ならば、コンクリート製ポットとかに植え替えてやりたいが、それこそ大きなお世話だろう。そば屋さん、苦情が出ないように上手くやってください。それから、道路管理者さん、どうか見逃してやってください !