Mです。
26日の朝日新聞に、トランプさんが「使えるコロナ治療薬」として発言し、事実それなりの効果をもたらす結果も得られながら、日本国内ではほとんど注目されなかった抗体カクテル療法について、今回のオミクロン株に対する治療法として推奨しないと決定した、という記事があった。ちゃんと探さなければ見つからない程度の小さな欄で、朝日新聞社としても「効かないのだからニュース価値は低い」と感じる扱いだった。その他報道機関の報じ方も似たり寄ったりだったと、ネットサーフして知った。
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↓12/26 朝日朝刊より転載
厚生労働省は、新型コロナウイルスの治療薬として承認されている抗体カクテル療法の「ロナプリーブ」について、変異ウイルス「オミクロン株」の感染者への使用を推奨しないとする通知を都道府県などに出した。有効性が弱まるおそれがあるためで、専門家による部会で審議して決めた。
ロナプリーブを開発した米リジェネロン社による実験で、オミクロン株に対して感染を防ぐ力が大きく低下すると示されていた。11月末時点で全国でロナプリーブを使用された人は、約3万7千人。
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感染者の重症化を防ぐ手段として、人工的に作った抗コロナ抗体(モノクローナル抗体)を複数種混ぜてクスリにしたものが今回報じられたロナプリーブ。そしてこれは、つい最近、中外製薬が承認されたと声高に発表していたものだ。
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中外製薬;抗体カクテル療法「ロナプリーブ」、新型コロナウイルス感染症の発症抑制薬として適応追加の承認を取得(2021.11.5)
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20211105160000_1161.html
デルタ株までの新型コロナウイルスに対して、発症防止あるいは重症化抑止効果があると認められていたもので、せっかく承認にこぎ着けたと思ったら、オミクロン株には効かない、と断じられてしまった格好。なんとも寂しい顛末だ。
その一方で、中国では、独自の抗体カクテルを作ったぞ、とつい最近発表しているように、この療法自体は決して軽視されるようなものではなく、論理的に正しい手法であることも間違いない。
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中国独自のコロナ「抗体カクテル療法」を初承認(2021.12.21)
https://toyokeizai.net/articles/-/476776
抗ウイルス抗体の多くは、病気を起こすウイルス表面に直接くっつくことでウイルスが細胞にひっつく邪魔をする、という実に単純で直接的な防御方法である。ウイルスは、細胞に入り込めない限り何の害も成せない。まずは細胞表面にくっついて細胞膜に自分の膜を融合させ、遺伝物質(コロナウイルスの場合はRNA)をヒトの細胞の中に送り込む。だから、この細胞膜の融合を邪魔してしまえば、ウイルスの中身はヒトの細胞に入り込めず、結果として感染が成り立たない、ということなのだ。
現在大問題になっている新型コロナウイルスだが、以前から風邪のウイルスとしてごく普通にとらえられていたウイルスの変種だということも、今一度確認しておく必要がある。下の表は、感染症研究所の解説文にあったコロナウイルスの比較表で、コロナウイルスの仲間が最近その姿を変えては、新たな病気として注目されてきた流れがよくわかる。
↓ 出典
NIID国立感染症研究所;コロナウイルスとは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
表からも判るように、厄介な症状をもたらして脅威になっているコロナウイルスの仲間として、しばらく前に話題となったSARSとMERSがある。MERSはまだ終息していないかも知れない状況で、2年前から新たなCOVID-19が現れたのだ。そして、そのウイルスの変身の度合いが一気に進んでオミクロン株が現れた、という流れなのだ。
このように考えると、単一のウイルス表面タンパク質(スパイクタンパク質)にだけ反応する単クローン抗体を複数種ミックスして使おうという「抗体ミックス」製剤は、変身していく敵ウイルスのスパイクタンパク質変化が少ないうちは効果があるが、変化が大きくなったり全く違う形になってしまったら抗体として作用しなくなる、というのは当たり前のこと。だから、デルタ型までは変化が小さかったので効果が認められていたものの、大きく姿形を変えてしまったオミクロン株に対しては、抗体の結合性が低くなってしまったために重症化抑制効果が出なくなってしまった。結果として、オミクロン株に対しては使用を推奨できない・・・、となってしまったのである。
ならば、もう「抗体ミックス療法」という手法は意味がないのだろうか?
実は、そんなことはないのである。中国が新たな抗体カクテルを開発、といっているのも、意味があると考えている証である。
抗体ミックス、という用語が示しているのは、複数、あるいは、いくつもの種類の反応性を持った抗体を混ぜてある、という意味だ。ところが、いま話題になっているミックス抗体製剤は、人為的に作った単一反応性のモノクローナル抗体を数種混ぜただけのもの。つまり、特定の相手にだけ反応する抗体をいくつか混合することで、結合する相手であるスパイクタンパク質が少し変化してもくっついてくれるだろう、という予測のもとに使われている。ただし、当然のことながら、混ぜた抗体の反応性の数だけしか”見えない”。
これが人為作成抗体ミックスの弱点といえる。
一方、我々の体の中で起こる免疫反応によって作られる血中抗体は、相手(ウイルスの表面構造)のどこに反応するかはランダムだ。さらに、ヒトの個体ごとに抗体の作られ方にも個体差があるから、同じ相手に対して作られていても抗体の種類と量は様々となる。同じコロナウイルスが体に入ったとしても、AさんとBさんでは、作られてくる抗体の種類も量も違うのである。もちろん、反応性が共通する抗体もある一方で、共通しない抗体も存在するはずなのだ。
とすれば、そんな多種類の抗体を混ぜた方がより効率的だ、と考えるのは当然のことだ。
これぞ、本来の「ミックス抗体療法」だと思うのである。
このことについて、以前、独自の献血制度を確立している日本なら、これが可能なはずだ、と書いた。
新型コロナ感染症から回復した患者さんたちから血液を提供してもらい、上述の多種類の抗体を含んでいる血漿成分を集め、滅菌消毒操作を行ってクスリにする。その技術と施設を持った日本赤十字社なら出来るはずなのだ。
このような、コロナ感染症から回復した患者さんたちからの血液を使った抗コロナ治療については、細々ながら国内でも試みられてきている。一部の医師たちが発案して動かしている例もあるのだ。
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朝日新聞アピタル;コロナ治療に回復患者の血液成分 ルーツは北里柴三郎(2020.5.31)
https://www.asahi.com/articles/ASN5Y5TH6N5WPLZU004.html
Yahoo!JAPAN;新型コロナから回復した人の血液で「治療薬」開発するプロジェクト 感染を経験したアナウンサーも研究に参加できる? (2021.10.8)
伝え聞いたところでは、コロナ報道でもしばしばTV画面に登場している医師も、この試みを進めているとのことだ。ただ、国の機関が協力することはなく、民間企業の協力を得ているものの、その量はまだわずかにとどまっていて事実上ストップしているという。
医師が個人的に試みられるのは、あくまでもその医師の責任範囲内のことで、患者さんとの合意の下で行われる個別治療である。だから、それを大々的に公表出来るとは思えない。おおっぴらにしたら、医師個人が責任を負える範囲をあっという間に超えてしまうからだ。
病院などの組織レベルでも限局されてしまうのだから、世間に「回復患者由来抗体カクテル療法」として広めるまでには行けないのである。
効果はあるのが判っていながら踏み出せない、というのは、何とも悔しい限りだと感じる。幸いにして、大騒ぎにはなっているものの、オミクロン株の毒性は低い可能性が高く、重症化率が低いまま推移している。もしかすると、COVID-19は、こののちごく普通の風邪ウイルスに落ち着く可能性もある。また、そうなって欲しいものだ。
とはいえ、いつまた強毒性の変異株が現れないとも限らない。
メルク社の飲むコロナ薬が話題になっているが、マイナーとはいえ、直接的にウイルス本体をがんじがらめにして感染できなくしてしまう方法があるのだから、抗体療法を軽んじることなく、出来る対策はとっておくのが国の姿勢ではないかと思う。
そのためにも、国有組織の色合いもある日本赤十字社には、いまからでも是非一肌脱いでもらいたいと思う。
たぶん、ワクチン屋さんに支払っている金額を遙かに下回る額で、安全な専用治療薬の開発が出来るのではないかと予想するのだが、どうだろうか。