Mです。
データの一時保存と移動に重宝しているUSBメモリー。ポートに差し込むだけで簡単に使えるツールだけに、頻繁に使っている。でも、ハードディスクへのデータ書き込みとは根本的に異なる技術で、絶縁膜で仕切られた半導体に高電圧をかけて電子の移動を起こさせるために、絶縁膜の寿命がデータ保持の限界になるという性質がある。
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※興味のある方は、Logitecさんが解説ページを設けているのでごらんいただきたい。かなり解りやすく説明してくれている。
https://www.logitec.co.jp/data_recovery/column/vol_002
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ハードディスクや磁気テープのデジタルデータは、磁気ヘッドを用いた磁性体の磁気状態の変更で行われるので、エネルギーが小さくて済み劣化しにくい。それに比べると、USBメモリーなどのフラッシュメモリーは、絶縁膜の基本性能、読み書きのコントローラー性能によってその寿命が違ってくるのだという。
同じ容量のメモリーでも、値段にもの凄い差があることをご存じの方もいるだろう。いわゆるブランド品が高いのは、読み書きの実効速度だけではなく寿命にも関係している、と言われると、なるほどと思う。長期保存するつもりのツールではないが、いつ突然死するかわからない、ということを覚悟しておく必要はある。
4月に、USBメモリーが結構な熱を持つことを書いた。半導体の劣化は熱によることは確実だから、通電状態で挿しっぱなしは良くないと記した。その理由は、読み書きを行っていなくても、ポートに挿しているだけでUSBメモリーは発熱し続けていて、それが長い目で見ると寿命を短くする要因になるからだ。
メモリー屋さんのセールストークを見ると、金属(アルミ)容器で放熱性能が良いことをうたっている製品もかなりある。つまりは、放熱性能を高くした方が良いと、メーカー側も最初から解っているのだ。なのに、中には奇をてらって果物や生き物の形態に飾ったメモリーも出回るなど、本質を追究するものがある一方で、どうせ長期保存するためのツールじゃないのだから遊び心重視、という物もたくさんあるという状況。
ならば、本当のところどれくらい熱くなるんだろうか、と興味があったので調べてみた。
試験対象には、3年ほど使い続けているHIDISCさんの64G USB3.0(スライド式)を使った。平坦な面が放熱面なのでセンサーが付けやすいし、熱くなるのも感覚でよく判る構造だからだ。
このメモリーは、平たく大きな面が2面あるが、片方はヘアラインを入れたプラスチック板で、ごく小さな透明部分が中央にあって、アクセスの際に小さな赤色LEDがチカチカ見える(上画像の上面がヘアライン面)。反対側はつるんとしたプラスチック面になっていて、使用中はこちらの面の方が熱くなる。
試験は2通り行った。
まずは通常状態で30Gbの映像データをPCから書き込み、室温に対して側面の温度がどの程度上がるかを調べた。
その結果は、思っていたより大きな発熱だと感じた。書き込み終了まで25分強かかったが、10分ほどで外気温プラス10℃以上の領域に達して、終了までそのままの温度になっていたことが解った。(下図の青線グラフ、横軸目盛の1は10秒、縦軸の温度は外気温との差)
プラスチック表面が10℃以上高くなるということは、熱伝導率の悪い素材でそうなのだから内部のチップ表面はその倍以上の温度上昇だと思う。挿しっぱなしにしていたときに感じた不安がさらに増大した結果だった。
となると、セールストークに放熱性をうたう商品が多くあるのも見逃せなくなる。だったら、放熱性を上げてやればよいのだと、昔のオートバイ乗りの手法を思い出した。
昔のオートバイは、大排気量でも空冷だけだったから、エンジンの放熱襞(フィン)を増やして放熱効果を上げようとした。とはいえ、襞を高くすると見た目の容積ばかり大きくなって跨れなくなってしまう。そこで、襞は低いが数で勝負、と、細かな襞を芸術的な配置で作る工夫をしていた。
ただ、それだけでは夏場のツーリングだとオーバーヒートしてきて出力が落ちるという経験を多くのライダーが知っていた。そんな彼らの中に、エンジンの襞にアルミの洗濯ばさみをくっつけて放熱効率を上げるという技が生まれた。洗濯ばさみなら、軽くて薄く、しかも熱伝導率がよいから工夫次第で効果を感じることが出来た。空気の流れを読んで、しかもカッコ良く配置した洗濯ばさみエンジンをいくつも見た記憶がある。
ということで、2つ目の試験は、アルミ洗濯ばさみを付けて果たして放熱効果が上がるかどうか、を見てみたのである。
アルミの洗濯ばさみはなかなか見かけなくなっているので、ネットで探した。なるべく平らな口を持っていて、平面にフィットしやすい物がよい。そうして見つけたのが下の代物。36本一袋で900円は、ちょっと高かったが、イタズラには少々カネがかかるのは覚悟しなくてはならない。上手くいけば、長く使えるし。
折角だから、メモリーの長さ方向に並べて6個挟み付けてみた。
その状態で、1つ目の試験と同じことを行ってみた。
結果は、予想を超えるものすごい効果。なんと、洗濯ばさみ無しのとき11℃以上だった温度上昇が、2℃にまで抑えられたのである。(上記グラフの茶色ライン)
放熱効率5倍アップである。
メモリーのメーカーは、容器材料に工夫をして放熱を良くしているのだろうが、それだけでは限界がある。表面が平らなメモリーならば、放熱面に金属を追加して表面積を増やすだけで、驚くほどの効果があると解った。薄いヒートシンクをカットしてUSBメモリーを挟み込むなどしたら、さらに効果が高いかも知れない。
↓ 下のようなアルミヒートシンクを鋸で切って、なんてことも有りだ。
平坦でないメモリーだとやりにくいが、とにかく、熱伝導の良い素材で表面積を増やしてやる工夫、あるいは、風を当ててやる工夫、などで、かんたんにUSBメモリーの寿命延長が図れるかも知れないと思われる事実をつかんだのは大きかった。
Mが使うUSBメモリーは、これから先、いつも洗濯ばさみと一緒に移動することになりそうだ。