理系夫婦Y子とMの昭和から令和まで

都内で働く薬剤師Y子と、パソコン・DIY・生物などに詳しい理系の夫M。昭和30年代から今日までの実体験に最新の情報を加え、多くの方々、特に子育て・孫育て世代の皆様のお役に立つことを願いつつ発信する夫婦(めおと)ブログです。

アスファルト路面の涙 鉄片混入じゃね?

Mです。

 多分今年になってからだと思うのだが、毎朝歩くアスファルト舗装面に奇妙な茶色のシミがたくさんあることに気がついた。

 

 このような茶色いシミがいろいろな路面で見られて、なかには路肩に向かってゆるく傾斜している路面を、長く尾を引くように流れ広がっているところもある。
 この現象が気になってから、いろいろなアスファルト路面を眺めて歩いているのだが、幹線道路ではまず見かけない。ほとんどが、狭い路地や駐車場になっている舗装面などばかり。なかには、路面に貼り付けられている白線の裏側から錆色が滲み上がってきているところもあった。

  

 色合いといい、水で流れるように尾を引いているところといい、感覚的には鉄錆としか思えないのである。

 今ではだいぶ見かけなくなってきたが、トラックの荷室壁が鉄板だった頃は、年数を経たトラックの箱には、ビス周りに鉄錆が発生してそれが雨水で流れて茶色の筋を引いているのをよく見かけた。最近は、ハコ車(扉つきの箱形荷台のトラックのこと)の外装がほとんどアルミ製になったので、錆が出ることも少なくなってほとんど見かけない。白い塗装のトラックが多くなったのも、年配の修理屋さんたちによると、「錆の涙」を流さなくなったからだそうだ。車体のビス留め部位から発生した錆が流れるのを、涙、と呼んでいたのである。

 今回の茶色の路面しみは、まさに、この鉄錆涙そのものに思えるのである。

 最初の写真を見てわかるが、このシミが発生している周りの石粒は、かなり大きさにばらつきがある。それで気がついたのだが、これまで観察してきた路面シミがあるところは、どう考えても本格舗装をするほどの場所ではなく、水道工事、下水工事云々でたびたび掘り返されては舗装し直されているような場所が多い。ということは、大きなコストがかけられない安普請の対象箇所なのではないか、と考える。そんな場所だから、使っている砕石が程度の低い材料で、鉄片も入ってしまう建築廃材の破砕物も使われているのではないかと想像した。

 そこで、道路舗装に関する国土交通省の規定を調べてみた。
 下が、舗装の構造に関する技術基準 ( 国土交通省)で、使用する砕石のサイズに関しても細かく規定していることがわかった。
  https://www.mlit.go.jp/road/sign/pavement3.html

 ところが一方で、サイズの規定などはしっかりと行われているものの、その原材料に関してはきちんとした規定は見つからなかった。できあがった舗装の強度に関しては守るべき価を示しているものの、それを誰が確認するのかについてもまた、この文書だけでは不明だった。たぶん、認可団体のチェックに任せるのが現実的なので、そのような規定が別途設けられていて実施されているのだろう。 
 そんな団体かな、と思われたのが「一般社団法人 日本アスファルト協会」。
 その団体の解説資料を見つけたのが、下記である。
  http://www.askyo.jp/knowledge/08-1.html

 ここでは、アスファルト舗装の構造も含めて基本的な解説が行われていて、舗装表面の材料も示されている。さらに、施工順序を示した解説図があったので拝借してきた。

   <一般的な舗装構成と施工の順序>

  

  この図で上から三層目までが、アスファルト舗装路面の上層に当たる。言葉から判断すると、この層は粒度を調整した砕石が使われていることになる。第一、二層は、コート材料だから、あのアスファルトの黒々とした結着成分が第三層の砕石を覆う、ということだろう。図の第四層にあるクラッシャランという聞き慣れない言葉があったので調べてみると、これは、建築廃材で出たコンクリートを破砕して再利用するもので、最終的にはふるいにかけて粒度を調節して使う、と説明されている。いろいろな解説を見てみると、建築廃材には当然鉄骨が含まれるので、それは除かれて残ったコンクリートの塊だけを破砕している、とされていた。

 どうやら、このあたりに謎を解く鍵があると感じる。

 協会さんの舗装構造図では、クラッシャランは表層の下で路盤を強固にするために使われている。しかし、赤さびのようなシミが出来ているアスファルト路面の写真では、確かに天然石らしい石が多数詰まっているものの、その大きさはマチマチでとても粒度調整した砕石だけが使われているとは思えない。もし、上層路面が薄くて下層のクラッシャランが顔を出してしまうような施工が施されていたらどうだろう、と考えた。
 鉄骨は除いている、とはいえ、細かな鉄片まで完全除去するほどの手間はかけられないはずだから、当然、クラッシャランと呼んでいる路面材料には小さな鉄片くらいは入っていても不思議ではない。また、表層から二層はアスファルト混合物をのせて平らにする操作らしいが、よく見る舗装面修理作業では、熱々のアスファルト混合物を山盛りにしたところをレーキで均してから手操作の機械で打ち付けて平らにしている。そのとき押し固められている表層の厚さはごく薄く、押し固めるときにより下層のクラッシャラン層の砕石も浮き上がってくることがあってもおかしくない。その結果が、幹線道路に比べて表面の凹凸や隙間が多い簡易舗装面の最終形態なのであって、そうなれば、コンクリート破砕物が表面に顔を出しても何ら不思議はない、ということになる。

 そんなことを考えながら歩いていたウォーキングの途中で、ガソリンスタンドの歩道部分でも、コンクリート舗装面に赤さびのシミを見つけた。下左図では、白っぽい部分がガソリンスタンドが自前で行ったコンクリート舗装で、下の黒三角は公的歩道のアスファルト。右は、傾斜面のコンクリート舗装にあった流れシミである。

    

 結局、最終的に砕石をつなぎ合わせて平らにする素材がアスファルトかセメントの違いはあっても、中に含まれる砕石層の表面に鉄材料が顔を出せば、舗装完了から数日もすればそこが錆び始めるのだ。アスファルトやセメントの成分が初期のうちは鉄片などを覆っているのでわからないだけで、タイヤや靴に踏まれて皮膜がはがれれば、一気に錆び始めるのは当然のこと。そのさびが雨などで周囲に広がって茶色のシミを作っているのだと確信した。

 日本の高度成長期に、都市部の道路や建物の材料、高速道路網の建築素材として、地方の山や川から大量の砂や石が掘り採られた。それらが東京などの先進的な都市景観を作ってきた。生まれ育った田舎では、そうやっていくつもの山がなくなってしまった。そしてそのうちに、天然の砂や石が枯渇して建築材料高騰が始まった。
 一方で、高度成長期を過ぎて経年劣化で建て替えられる建物や橋、道路が現れると、今度はその廃棄物としてコンクリートの塊がどんどん増え、リサイクル、という「まやかし」っぽい言い方で廃材処理業が生まれ、それが再利用されることで資源の循環だととらえられてきている。この流れ自体は悪いことではないし、そうせざるを得ないことでもある。気になって調べてしまった今回の「舗装面の涙」も、資源再利用の流れの中に現れた、ほんのちょっとしたシミなのだろう。

 ただ、一つだけ肝に銘じておかなくてはならないことがある。
 モノを作る者は、その堅牢さ、確実さを決して軽んじてはいけない、ということだ。

 以前、急速な建築ラッシュに沸いていた中国の都市部で、建設後間もないマンションの壁が崩れ、中から家庭ゴミが大量に混ざった廃棄物が見つかったという話があった。これは極端な例としても、本来、堅牢であるべき建築物の中に、その堅牢性を将来的に損なうような「混じり物」が入っているのは許されない。今回気になっている鉄片だろうと思われる舗装材料の混入物も、それが錆びて水に流れてしまうと、そこにはうつろな空間が残る。現に、路面のシミでは、茶色の中心部が穴になって凹んでいる部分が多い。
 舗装面のように表層のごく一部なら実際的問題にはならないものの、建物のコンクリート壁の中に使われる砕石の代わりにコンクリート破砕物を使い、そこに鉄片も混じっているというようなことが起こったらどうだろう。当然のことながら、その量が多ければ、将来的にそのコンクリート建造物の壁強度に影響を及ぼすことにつながると思うのである。
 
 以前は気になっていなかった路面の茶色シミ。
 もしかすると、きれいなタイル面に覆われた高層マンションの壁の中にも、そんなシミが発生しているのではないかと勘ぐってしまう。